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農工間交易条件の内外価格差と資源移転
-なぜ中国の農民は貧しいのか-
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本稿では、160品目におよぶ貿易財の国内生産者価格と国境価格に関する推計データを用いて農工間相対価格の内外格差を測り、長期にわたる部門間資源移転の方向や程度について実証分析した。その結果、部分的に市場経済が機能していた1950年代前半において、農工間相対価格の内外格差が小さかったが、その後の計画経済期において、大幅に拡大したことが分かった。また、改革開放後の市場経済への移行に伴って内外格差が一旦縮小したが、近年再び拡大してきたことを明らかにした。この結果は、以下のような2つの含意を示唆している。第1に、計画経済期における開発政策が、農業部門に大きな課税効果を与えたことである。これは、国内価格に基づいた先行研究(石川(1966、1990)、中兼(1982、1992)山本(1999))の結論と異なっており、中国の経済成長の初期段階における資本形成が農業犠牲の上に成立していたことを示している。第2に、改革開放以後の中国では農村における所得や賃金水準が都市に比べて著しく低く、農村から都市への労働移動圧力が常に存在していたにもかかわらず、労働の自由移動は極めて限定的にしか許可されなかったことが、工業発展に伴う農村賃金の上昇効果を減じさせ、農工間相対価格を悪化させた可能性がある。つまり、労働市場の不完備、あるいは労働力の自由移動に対する規制が農業部門を犠牲にし、農村貧困問題の根源となっていると考えられる。故に、農民の負担を軽減するためには、直接的な農業税を軽減・廃止するだけではなく、農工間相対価格の内外格差を温存する政策を放棄し、産業構造の歪みを生み出す原因を究明・是正しなければならない。
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本論文は、袁堂軍(2010)『中国の経済発展と資源配分: 1860-2004』東京大学出版会に収録されました。 |
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