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Global Economic History Network

政府統計ミクロデータの試行的提供

AMU

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21世紀COEプログラム「社会科学の統計分析拠点構築」(拠点リーダー 斎藤修教授)のマクロ実証分析・為替相場分析を担当している小川英治(一橋大学大学院商学研究科教授)と清水順子(一橋大学経済研究所COE研究員)は、経済産業研究所(RIETI)との共同研究プロジェクトとして、アジア通貨単位(AMU)とAMU乖離指標のデータを作成し、両者のホームページに公開する。以下で、AMUとAMU乖離指標について解説する。

■AMU(アジア通貨単位)とAMU乖離指標の目的

1997年のアジア通貨危機以降、東南アジア諸国連合(ASEAN)および日本、中国、韓国で構成されるASEAN+3は、域内金融協力を推進してきた。その1つとして、自国通貨を買い支えるために必要な資金を2国間、もしくは多国間の通貨スワップで融通するチェンマイ・イニシアチブ(CMI)の創設が挙げられる。このCMIの下では、今後の通貨危機を防止するために各国金融当局による域内経済のサーベイランス(相互監視)が行われている。
新たなサーベイランス基準として、我々は東アジアにおけるアジア通貨単位(AMU)およびAMU乖離指標の創設を提案する。これらは、東アジアにおける為替相場政策協調に貢献するとともに、金融当局のサーベイランス機能の向上にも貢献すると期待される。AMUは、欧州連合(EU)加盟国がユーロ導入以前に欧州通貨制度(EMS)の下で採用した欧州通貨単位(ECU)を算出する際に用いた手法に基づき、東アジア通貨の加重平均値として算出される。各々の東アジア通貨のAMU乖離指標は、AMUに対してそれぞれの通貨がどれだけ各通貨のベンチマーク率から乖離しているかを測定したものである。
AMU乖離指標として、ここでは日次ベースの名目AMU乖離指標と、各国のインフレ格差を調整した月次ベースの実質AMU乖離指標の2つを提示する。名目AMU乖離指標を見ることにより、各国通貨がAMUからどれだけ乖離しているかをタイムリーにモニターすることが可能となる。一方、実質AMU乖離指標は為替変動が実体経済に及ぼす影響を監視するのにより適していると考えられる。

■AMUの算出法

ここでは、ASEAN+3の計13通貨をAMUの構成通貨とした。ASEAN+3はブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、日本、韓国そして中国で構成される。
AMUの算出手法は、1999年のユーロ導入までEMSの下で採用されていたECUの算出手法に倣った。ECUがEU加盟各国の通貨のバスケットと定義されていたのと同様に、AMUはASEAN+3の国々のバスケット通貨として定義される。AMUにおける各通貨のウェイトは、購買力平価で測った各国のGDPのシェアと当該国がサンプルとして抽出された国々の総貿易量(輸出と輸入の合計)の中に占める割合の双方の算術平均に基づいて算出した。購買力平価で測ったGDPシェアおよび各国の貿易量シェアは2001年から2003年の間の平均を用いている。これは、東アジア13カ国の最新の貿易関係と経済規模をシェアとして反映させるためである。
さらに、AMUの対価となる通貨としてここでは米ドルとユーロの加重平均値(以下、米ドル‐ユーロ)を用いる。これは、米国のみならずユーロ圏諸国も東アジア各国にとって重要な貿易相手国であり、AMUの相場は米ドルとユーロの加重平均として扱われるべきと考えるからである。米ドル‐ユーロは、東アジア各国の米国、及びユーロ圏との貿易量に基づき、ドルとユーロに対する加重値はそれぞれ65%と35%に設定して算出される。(注1)

■ベンチマーク

次に問題となるのは、AMU乖離指標を算出するためのベンチマーク期間の設定である。ベンチマーク期間の定義は、加盟各国の総貿易収支、日本以外の加盟国の対日貿易収支、および加盟国とその他世界の総貿易収支が均衡状態に最も近い期間とする。


表1は、1990年から2003年までの東アジア13カ国の貿易収支を示したものである。これによると、貿易収支が最も均衡に近づいたのが2001年だったことが分かる。為替レートの変動が貿易量に影響を及ぼすまでに1年のラグがあると仮定すると、2000年-2001年をベンチマーク期間とするべきである。ベンチマーク期間のAMUの対米ドル‐ユーロ為替レートはベンチマーク期間に1とし、この期間におけるAMUに対するそれぞれの東アジア通貨の為替レートをベンチマーク為替レートと定義する。
以上のように、AMUの加重値は2001年から2003年間の貿易量シェアと購買力平価で測ったGDPに基づいたウェイトで構成され、各通貨のベンチマーク為替レートは2000年から2001年の間のAMUに基づき定義される。表2は、各通貨の貿易量シェア、購買力平価で測ったGDPシェア、およびその算術平均によるシェア、ベンチマーク為替レートとAMUのウェイトをまとめたものである。


表2のAMUウェイトを用いて以下のようにAMUの対米ドル‐ユーロ為替レートを算出することができる。


図1は、米ドル‐ユーロ換算でのAMUの名目為替レートの日々の動きを示している。参考までにAMUの対米ドル、および対ユーロの名目為替レートの動向も併せて示した。

図1.AMU為替レートの日次グラフ

■名目および実質AMU乖離指標の算出

次に、各東アジア通貨の対AMU名目為替レートを用いて、各通貨のベンチマーク為替レートからどれだけ乖離しているかを表す名目AMU乖離指標を算出する。




図2と図3はそれぞれ日次、および月次の名目AMU乖離指標の動向を示している。

図2.日次名目AMU乖離指標(13カ国)

図3.月次名目AMU乖離指標(13カ国)


次に、各国間のインフレ率格差を考慮した実質AMU乖離指標を算出する。名目AMU乖離指標が式(1)で定義されていることから、実質AMU乖離指標は次の式で求められる。




実質AMU乖離指標を算出するにあたり、インフレ率として消費者物価指数(CPI)を用いている。 CPIデータは月毎にしか提供されないため、実質AMU乖離指標は月次データとなる。AMU域内のインフレ率については、貿易量シェアと購買力平価で測ったGDPシェアの組合せであるAMUウェイトを使ってCPIの加重平均を算出する。図4は各東アジア通貨の月毎の実質AMU乖離指標の動向を示したものである。

図4.月次実質AMU乖離指標(11カ国)

為替レートが貿易量や実質GDPなどの経済変数に与える影響を考察するには、名目AMU乖離指標より実質AMU乖離指標をモニターする必要がある。一方で、実質AMU乖離指標は月次でしか提供されず、しかも東アジア諸国13カ国のCPIのデータが揃うまでに6カ月間のタイムラグがあるという短所がある。これに対して、名目AMU乖離指標はタイムリーに提供されるという長所がある。したがって、名目、実質のAMU乖離指標はそれぞれが為替政策と関連するマクロ経済変数のサーベイランスのための補完的手段として有用であり、東アジアにおける為替政策協調に役立つものとなるであろう。

■ベンチマーク期間とAMUウェイトの改定

ベンチマーク期間は、毎年ASEAN+3各国の貿易収支データがすべて更新された後に改定されうる。同様にAMUウェイトは、毎年貿易額に関するデータと購買力平価で測ったGDPが更新されてから改定される。現在、RIETI(経済産業研究所)のHP上において、日次データとして主要3通貨およびアジア通貨の対AMU為替レートと名目AMU乖離指標、月次データとして名目AMU乖離指標と実質乖離指標のデータおよびグラフが掲載され、ダウンロード可能となっており(http://www.rieti.go.jp/users/amu/index.html)、一週間に一度の頻度で更新されている。同様のデータが一橋大学経済研究所COEのHPでも公開予定であり、今後サーベイランス指標として利用されるとともに、多くの研究に広く活用されれば幸いである。

(注1) 2001年から2003年の間の平均貿易量で算出。
(注2) BN$=ブルネイドル、CBR=カンボジアリエル、CNY=中国人民元、IDR=インドネシアルピア、JPY=日本円、KRW=韓国ウォン、LOK=ラオスキープ、MLR=マレーシアリンギット、MYK=ミャンマーチャット、PLP=フィリピンペソ、SP$=シンガポールドル、TLB=タイバーツ、VTD=ベトナムドン
(注3) CPIのデータを使用するのはいくつかのサンプル国において統計上の誓約のためCPI以外に統一して利用できるデータがないためである。
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